バリアレスシティアワード&コンペティションの審査員をお願いしている方の紹介と、インタビューを掲載していきます。
最初は、アテネ・パラリンピック 車いすテニス金メダリストの齋田悟司氏。
そして、バリアレスシティ実行委員でもあり、52歳で現役車いすテニス選手、一級建築士、スポーツカメラマンとしても活躍する本間正広氏
のお二人に、テニスの事、海外遠征のお話等を伺いました。
(聞き手 本多健)
■Q 本間さんと齋田選手と会ったのはいつですか?。
本間 私がテニスを始めたのは、18年前(1997)ですが、齋田君はテニスを始めて27年ですかね?
当時から車いすテニスの盛んな柏のTTC(吉田記念テニス研修センター)に来たのは 私の方が先で、齋田君は、その2年後くらいに三重からやってきました。
■Q 本間さん 齋田選手はどんな選手ですか?。
本間 その当時、既にアトランタパラリンピック(1996)の代表選手でもあった齋田君は、車いすテニス界を引っ張ってきたレジェンドといった存在です。
みんなが憧れるような存在なんですけど、それは、テニスが素晴らしいとか、強いというのもあるんだけども、人間的にもすごく優しいし、人に対しての思いやりもある。
そういうところもあるから、人から慕われると思うんですよね。
普通、ランキング上の選手に「練習してもらえませんか?」ってなかなか言えないんですけど、逆に、齋田君の方から、「練習に入れてもらっていいですか~」とか言われると、うれしくもあり、戸惑いもあり…やべ~なみたいな(笑)
ボールを受けても、ちょっと次元の違う球ですしね。
本多 確かに、身長186cmあって、車いすに座っていても、かなり高い位置から打ち下ろせますよね。さっき練習を見ていたのですがすごく重そうな球を打っていました。
■Q 齋田選手は何歳のころからテニスをはじめたのですか?
齋田 14歳(中2)でした。最初は車いすバスケをやっていたのですが、車いすテニスの体験講習会があっったのが最初です。
私は小6まで健常で、野球をやっていて、どっちかっていうと、テニスって女の子のスポーツのイメージがあって…
え?って感じでした。
でも、バスケットチームはその講習をきっかけに、バスケットとテニス両方やるようになったんですが、しばらくしたら、みんながテニスが楽しくなってしまって…(笑)
自分はどっちかっていうとバスケやりたかったんですけど、一人でバスケやるわけにもいかないじゃないですか(笑)
しかたなく、自分もテニスかな~なんてなりましたね。
本多 だいぶ流されてますね(笑)でもその結果金メダルまで上り詰めるのですから、すごいですね!
■Q 齋田選手が本格的に車いすテニスを始めたのはいつですか?
齋田 1996年のアトランタパラリンピックのあと、1999年にTTCに移籍し、三重から柏にやってきました。その前は、大学を出て、地元の市役所に4年間勤めていました。
当時、障害者スポーツでスポンサーがついて、練習に専念できる環境なんて考えられなくって、本格的にテニスをやりたい気持ちと、将来的な不安がいつもあったのですが、OXって車いすの会社が社員として雇ってくれて、テニスをする環境を整えてくれたんですね。で、テニスをするならTTC(吉田記念テニス研修センター)しかないと思っていました。
本多 今、TTCは車いすテニスの聖地になっています。
本間さんと同時期にテニスを始めた国枝選手(世界ランキング1位)を始め、眞田選手、藤本選手と上位の日本人選手は皆TTC所属です。きっと練習場や、コーチ等の環境も良いのでしょうけどいい兄貴としての齋田選手がいて、引っ張ってきたんだろうな~と感じました。
[齋田悟司選手+本間正広選手](2)
~アクロポリスを車いすで登る!~
Q 次は、齋田さんに本間さんの紹介をしていただきます。
齋田 本間さんを一言でいうと…良い人です(笑)。
私は43歳なんですけど、40歳を超えてくると、負けが続いたり、疲れがたまってきたり、何かと歳のせいにしてしまうんですけど、本間さんみたいに50歳を超えてまだ競技を続けている人を見ると、すごい刺激になるし、自分も頑張らなくてはいけないなという気になりますね。
それから、TTCの初心者のコースのレッスンをしたり、協会の仕事をやってたこともあるし、普及活動にも積極的です。
私自身が、普及活動があったからこそ、車椅子テニスに巡り合えたので、やらなければならないのですが…
もう少し落ち着いてから(笑)
その点、本間さんは常に全体が見えているのがすごいですね。
本多 本間さんは、元々大工で、工事現場で受傷してしまいました。
大工として働けなくなった苦しさは絶対あったと思うのですが、そんなこと微塵も見せないのが、私はすごいところと思っています。
また、一級建築士も取得していますし、スポーツカメラマンとしても活躍しています。いったいどれだけ引き出しがあるのか?
まだまだ持ってそうですよね。
Q 車いすのスポーツが盛んな国はどこですか?
齋田 テニスでいえば、オランダ、イギリスですね。
特にイギリスはウィンブルドンもあって、元々テニスファンも多いのですが、2012年ロンドンオリンピック/パラリンピックがきっかけで、交通や競技環境が整備もされたのも大きいと思います。
本多 テニスって錦織選手とかが出る健常者の大会と同じ期間中に車いすテニスも開催されますよね。他のスポーツであるのかな?この感覚がとても素晴らしいですよね。
齋田 そうです。他ではあまり聞かないですね。ウィンブルドンも出たことありますけど、時間によっては車いすテニスの試合で満員になるし、テニス好きな人本当に多いですよ。立ち見になったり、入れなかったりもします。
本多 ウィンブルドンって芝ですよね?芝で試合できるんですか?車いすが重くて動かなそうだけど…
齋田 2週間ある大会期間中で、最後の方が車いすの試合で、
ベースラインのあたりとかは、みんな激しく動くので、芝がなくなっちゃってるんでいいんですけど、車いすテニスは2バウンドまでOKだから、ベースラインの奥の方に飛ぶと、まだ芝がふさふさしてて、そうすると車いすも重くて、ボールもあんまり跳ねないから厄介ですね。
本間 この話は、めったに聞けないよ!私は芝のコートやったことないし、ウィンブルドンに出られる選手は限られてるから!
Q 他に記憶に残っている試合はありますか?
齋田 やっぱり、金メダルを取った試合かな。でも、その前の準決勝の時、先に相手にマッチポイントを取られてから逆転で勝って、その勢いのまま決勝も戦えたのが大きかったですね。
本多 アテネパラリンピックの決勝、準決勝ですね。アテネでは、同じTTCの国枝慎吾選手と共に、金メダルで、そのあとの北京は銅メダルでしたよね。
アテネの町とか、石畳や起伏も多い都市だから移動も大変そうですよね?
齋田 幸い、最後まで試合をしていたので、大会期間中は町には出なかったんですけど、最後に一日だけ、観光ができる日があったので、パルテノン神殿に行ったんですよ。
本多 あれ?あそこは車じゃいけないし、ずっと階段と坂ですよ?
齋田 そうなんです。一般の観光客のルートではなくて、パラリンピック用にあのパルテノン神殿(アクロポリスの丘)の絶壁に一人乗りの仮設のエレベーターが設置されていたんです。しかも、手すりがあるだけで、カゴになって無いし!(笑)
本間 写真見せてもらったんですけど、絶壁にレールをアンカーで打ち込んで固定して、ウィンチで台を持ち上げる感じでしたよ。
本多 うわ!そこら辺の絶叫マシンよりも怖そうですね。
罰ゲーム的な…(笑)(アクロポリスの丘は70mの崖です!)
でも、歴史的な建造物だらけの都市ですから安易に壊せないし、まぁ、思い出にもなるし…
東京にも、車いすでも必ず見ることのできる日本的なところ作るべきですね!
[齋田悟司選手+本間正広選手](3)
~車いすであることを忘れさせてくれる国~
本多 南アフリカはどうですか?国別対抗戦(団体戦)で優勝していますよね?
齋田 参加選手の7割くらいがお腹壊します(笑)
本間 アメリカの女子チームは試合が出来なくて帰っちゃうし(笑)
本多 なるほど!胃腸が強いことも優勝するには必要条件ですね!(笑)
本間 街中に泊まって、試合は郊外まで移動するんですけど。
治安的にホテルから夜は出てはいけないし…町はよくわかりません。
齋田 今年は停電が多くて…。計画停電だっていうんですけど、全然計画性なくって(笑)、12階に泊まっていたので、停電するとエレベーターが動かないので、出られないし、特に初日は食事をとって無かったので、いつ動くかわからない中、空腹と戦っていました。
ネットの情報だと、石炭で電気を発電していて、石炭が湿ると発電量が落ちて停電するらしくって…ホントかな~って(笑)
本多 毎年のように大会がありますよね?南アフリカは車いすテニスが盛んなのですか?
本間 何年か前から力を入れていますね。でも、バリアを解消するのは人力で、送迎バスはスロープの代わりに力強い運転手がついていました(笑)
車いすごと持ち上げて乗るんですけど、毎朝、毎晩だからけっこう大変でしたね。
齋田 アメリカだと全てが普通にできるから何にも問題なかったよね。
本多 何が違うのですか?
本間 日本の電車はすごく手厚くって、改札通るときに「どちらまで行かれるんですか?
」って聞かれて、ホームまで案内されて、降りる駅でも駅員が待っていてくれてすごくありがたいのだけど、ちょっと自由度もなくって、気が変わって他の駅で降りるとかできないし、アメリカだと普通に誰もついてこなくても乗れるんだよね。
本多 もし、海外の選手が日本の電車に乗ったら手厚いサービスはどう映るのでしょうかね?
齋田 う~ん 日本の電車は複雑でしょ。例えば常磐線に乗ったのに、途中から千代田線になってしまうし(笑)、ホント難しいから、旅行者にはありがたいサービスなんじゃないかな。
「旅行者に優しい」企業の取り組みですよ。きっと。
アメリカは、何もかも自然で、個人のレストランでも普通に車いすでトイレに行けるし、男子トイレの個室の1つは必ず大きいブースになっていて、別に車いす用です!って表示もなくても、どこのトイレに入っても問題なく用が足せるんですよね。
本間 本屋で上を見ていると、
「大丈夫か~ そか、じゃあ」みたいな。
軽く声を掛けてくれるし、自分が車いすであることを忘れて生活ができるんですよ。
レストランの前で「このお店大丈夫かな~」なんて思うことはないしね。
齋田 車いす用の駐車場は、必ずあいているよね。日本で雨だとだいたい満車で、どう見ても健常の人が置いている場合があるけど、アメリカは罰金がものすごく高いらしく、駐車場も困ったことないですね。
本多 行政側も徹底しているし、個人経営でも当たり前のようにスペースを確保するというのができているんですね。成熟していますね。まぁ土地に余裕もあるのでしょうけど…
なんかアメリカのイメージと違いますね。
齋田 やっぱり進んでいるんだと思います。意識も人の感覚も。車の運転も、けっこう譲り合いがあるんですよね。アメリカのイメージって違うじゃないですか。でも、どの街も譲り合っているんです。心に余裕があるんじゃないかな?
本多 なるほど、確かに、移民も、旅行者も受け入れてきた国ですからね。日本では、いたるところで、インバウンド、インバウンドって、外国人旅行者を2000万人に増やそう!って号令がかかっているんだけど、今の1400万人から2000万人になったらびっくりするくらい外国人が町を歩くことになりますよ。その時に意識を変えなければならばいのは、住んでいて、働いてる我々なんですよね。きっと。
来ていただいた外国の車いすユーザーが、日本にきたら、
「自分が車いすに乗っていることを忘れさせてくれた!」
って言ってくれる都市にしたいですね!
[齋田悟司選手+本間正広選手](4)
~日本のホテル事情~
Q 来年5月に東京でチームカップ(国別対抗戦)がありますね?
齋田 海外の選手はホント楽しみにしていますよ。
本間「東京は初めてなんだよ!って」みんな言うし、
マレーシアの選手は、ディズニーランドに連れて行ってほしいって言われてます(笑)
齋田 原宿に行きたい!って言ってる人もいますよ。
本多 おー。なるほど。まぁあれだけ特化した通りも珍しいでしょうね。私も女子中学生とクレープ屋の数に驚きましたし(笑)
本間 人ごみは苦手ですね。どうしても車いす分のスペースが必要じゃないですか?そうすると、周りに「悪いな~」って思うんですよ。だったら、好んで行かなくてもって思うんですよね。
本多 車いすであることを意識させちゃってますね~。ところで、東京初開催とのことですが、日本では国際試合は少ないのですか?
本間 日本でも大きな大会があって来るんですけど、福岡県の飯塚ってところなんですよ。我々も最初どこ?って思うくらいの場所です。
齋田 元々炭鉱が多い地域で、怪我が多かったらしく、脊損センターっていう病院があるんですよね。そういう関係もあるのかな?送迎バスもあるし、移動には支障がないですね。
本多 観光に海外の選手は出られるんですか?
本間 大会関係者が送迎バスを出して、大宰府へのツアーとかを無料でやっています。みんな参加していましたよ。
本多 なるほど。東京だとどうなるんですかね。2020年パラリンピックの実験的な要素が強い大会というのもうなずけます。
Q 海外でのホテル事情はどうですか?
本間 台湾は今週行きますけど、ホテルは街中にあります。台北市の地下鉄がすぐ目の前で便利だし、バリアフリー化が急速に進んでいて、この5年間で、整備されてきましたね。表通りは移動に問題ないですね。
本多 ホテルは、バリアフリールームではなく、普通の部屋ですよね。
本間 そうですね。日本だとユニットバスの配管をスラブ上で回すので、段差ができるじゃないですか?海外だと在来で、おそらくスラブ下に配管を持っていくので、段差がない部屋が多いのが良いですね。扉も広いし。日本はリゾートホテルでないかぎり、扉も狭いし、段差もあるし、使いにくいです。
齋田 自分は立てるからまだ良いけど、立てない人は大変ですよ。
本多 そうか~。ロンドンパラリンピックでは、選手が6500名。その競技にあこがれる、子供や若い選手なども合わせたら、10000人を超える人が東京に泊まるわけですよね。そして、あのユニットバスの段差と、東京のホテルの狭さに直面するわけだ。宿泊業界の打開策は、たくさん応募あるとうれしいですね。
それと、ホテルを運営する企業は今どんなこと考えてるのかな?取り組みも応募してほしいですね。
[齋田悟司選手+本間正広選手](5)
~応募者へ そしてリオパラリンピックへの挑戦~
Q バリアレスシティの活動を聞いてどう思いましたか?
齋田 今まで、こういった活動を聞いたことなくて、選手としても、車いす利用者としても、こうなったらいいなとか考えるんですけど、誰に伝えたら変わるのかわからなかったですね。
こうやってプロが考えてくれることはとても良いことだと思いますし、これが広がって、今まで難しかったことができるようになるとうれしいですね。
審査員という立場は大丈夫かな?って思いますけど、健常の時には絶対気が付かないことが、こうして車いすになると気が付く事があるし、お役に立てればなとおもいます。
本多 建築を含めたデザインの世界は、その業界内の人が、業界の人に審査されて評価されていく世界なんですけど、このアワードもコンペも齋田さんや本間さんの力が必要なんですよ。業界を越えた幅広い視点から審査したいと思うし、今後の社会に必要なことなんじゃないかと思っています。
齋田 確かに、これから高齢化社会に入って、すべてのひとが暮らしやすいまちづくりになってほしいし、ならなきゃいけないんだろうな。
本多 そうですね。齋田さんや本間さんの様に、アクティブな方がいらっしゃる一方で、まだ、あまり外に出られない方もいらっしゃると思います。
きっと世の中のバリアフリー化のベースアップには行政の貢献が絶対必要なんですけど、今日本は、次のステップに来ていて、本間さんや齋田さんの言うアメリカの様な障がいがあっても、普通に生活でき、旅行できる自然な住民のバックアップとか、街になるべきですよね。これが2020年までに少しでも進んだらいいな。
齋田 大がかりなことをやれば、どうにでもなるじゃないですか?でも、そうするとお金とスペースが必要になってくるんだけど、でも、どちらもないけど、こうすれば同じような効果がありますよってアイデアがあると良いですよね。
本多 良いですね~。目標が5年後ですから、夢物語よりは、問題解決型の提案が良いですね!
Q 最後に、今のテニスでの目標は有りますか?
齋田 来年の5月中旬にリオオリンピックの選考があるので、それは、1年間のポイントで決まるので、今はそれを目標に試合に臨んでいます。
本多 期待してます!次は大阪オープンですね。頑張ってください!本間さん、齋田さんありがとうございました。
バリアレスシティアワード&コンペティションの審査員をお願いしている齋田選手と本間選手にお話を伺いました。
11月16日締切です。審査は12月の予定をしております。今後ともよろしくお願いします。